小室哲哉×浅倉大介 新たな音楽の可能性と夢の行方 PANDORA 2018 @ Billboard Live Osaka 2nd stage ライブレポート

小室哲哉氏と浅倉大介氏とのユニット「PANDORA」のライブが1月26日のビルボードライブ東京での公演に続き、2月3日にビルボードライブ大阪で開催された。
2018年1月19日に記者会見で突然の引退を発表した小室さん。予定されている公演としては現在のところ事実上最後となるライブであった。
このライブのセカンド・ステージを振り返る。

ステージの上手には小室さんのキーボード・セット。中央には小室さんが弾くグランドピアノ。そして下手に浅倉さんのセットが配置されている。心なしか、客席からはいつものライブ前の高揚感とは少し違う、緊張感と熱量を感じる。

ビルボードライブの会場の構造上、演者は客席上方からステージへと入退場をする。歓声と拍手の中、客席の間を通り抜けステージへと向かうふたり。それぞれのキーボード・セットにスタンバイし、PANDORAの時間がはじまる。

オープニング。PANDORAというプログラムを起動させるかのようなシンセサイザーの音色が響き渡る。宇宙の創世のような、神秘的な物語のような曲は、プログレッシブな展開で壮大な世界観を抱かせる。会場は圧倒的な音圧で包まれ、息を飲むほどの迫力。気がつけばいつのまにか彼らの作り出す音の世界に迷い込んでいた。

続いて2曲目に突入。ミニアルバムに収録されている新曲『Shining Star』。イントロはエキサイティングな期待でいっぱいのフレーズ。イメージするなら飛行機の離陸だろうか。明解で耳に残るメロディを小室さんと浅倉さんが弾き合う様子は、鍵盤で会話をしているかのよう。ふたりの音色が呼応している。ポップさばかりではなくて、切なさや激しさも込められている曲。そしてこの空の旅は小室さんのジャジーなピアノで優雅にランディングした。

拍手の後、小室さんがマイクを取る。
「どうもありがとう。ビルボード東京から大阪にきて、これが4回目のステージになります。ずいぶん慣れてきました。最初(の曲)はふたり、もう何十年も一緒なんで、アイコンタクトだけで即興でやったというね。よく繋がったなっていう(笑) その後にちょっとPOPな曲を。PANDORAとしての新曲です。『Shining Star』という曲でした。次は、去年の夏に山にこもって一日ふたりで、2時間、3時間くらいでできた曲。聴いてください。『proud of you』。」

3曲目の『proud of you』はシングル『Be The One』の2曲目に収録されており、仮面ライダーGIRLSがボーカルを担当している。2月7日発売のPANDORAのミニアルバムでは小室哲哉の盟友ともいうべきPWL出身のイギリスのミキシングエンジニア、Dave FordによるUK mixが収められた。ビルボードライブではインストが演奏され、小室さんが時折膝で鍵盤を叩くようなアグレッシブな場面もあった。よりソリッドで、シンセサイザーサウンド全開のアレンジになっていた。

小室「場所柄、アコースティック・ピアノを常設しているところなので、せっかくなので、ピアノ・ソロを弾こうかなと思います。少しずつ、何をやるのか大ちゃんは分かってきたと思うんで、段々(演奏に)入ってきてくれます(笑)。最後は完全にふたりになると思います。どこらへんから入ってくるのか、お楽しみに。」

そして小室さんのピアノ・ソロに突入。場面転換されたように一気に雰囲気が切り替わる。ビルボードという会場ならではの醍醐味だろう。
TM NETWORKの『Get Wild』のフレーズが静かに始まる。浅倉さんが少しずつ少しずつ、キラキラした魔法の粉をふりかけるようにシンセのアレンジを加えていく。小室さんの唯一無二の演奏が夜空の星のように輝きを放っていき、ピアノのメロディの輪郭がくっきりと浮かび上がる。ふたりはまるで音のプラネタリウムを作り出していくようだ。
globeの『DEPARTURES』そして『Precious Memories』。
大人になり、お酒を楽しめる場所でこうして、小室哲哉が生演奏する『Precious Memories』を聴くことができるなんて、なんと贅沢な瞬間なのだろうか。

後半、小室さんは立ち上がり、力強くピアノの鍵盤を叩いていた。ブルーのライティングの中で浮かびあがるその姿は叙情的であり、メドレーは時に優しく、時に激しく、そしてジャジーに進行していく。
続いて安室奈美恵の『CAN YOU CELEBRATE ?』。ピアノとシンセのハーモニーが広がってゆく。小室さんは数年前から坂本美雨さんと共に『TK piano biography』というピアノがメインのコンサートを国内外で行っている。そこでのピアノ・ソロが結実したような、まさに集大成とも言うべき、素晴らしい構成の演奏だった。

次の曲はミニアルバム収録の『Aerodynamics』。小室さんが作り、浅倉さんが仕上げた大作と紹介し、小室さんが「(長い曲であることが)この時代にはそぐわないかも知れないけど、映像をイメージしながら聴いてもらえるとうれしいです」と説明し、スタート。

舞台中央にはスクリーンが登場し、数字や線描画や脳の模型などの抽象的なモチーフが映し出されていく。”空気力学”と名付けられたこの曲は、稲妻のような、地鳴りのような、何物にも抗えないうねりや疾走感を感じさせる。
まるで人間の運命的な生き様を彷彿とさせるような、物事の危機的局面を示唆しているような、または自然の摂理や宇宙の神秘的な事象のような。受け手によってさまざまなイメージが膨らむ、極めてストーリー性が高く、気宇広大なテーマをはらんだ、いうまでもなく壮大な作品だ。

2017年11月に日本科学未来館で行われたデジタルアートの祭典「MUTEK」における脇田玲氏とのインスタレーション・ライブで小室さんは『Aerodynamics』を初披露している(→MUTEK.JPに登場 小室哲哉×脇田玲のインスタレーション・ライブ)。
それは日本のコンテンポラリーなアートシーンが小室哲哉という芸術家をやっと見つけたステージだった。

そのPANDORAバージョンで、彼らはエモーショナルにシンセサイザーを操っていた。どうして今までこのユニットがなかったのだろう?と思うほどの自然さ、シームレスさ。このふたりだからこその「あ、うん」の呼吸が感じられた。シンセサイザーの音圧の中に身をゆだね、いつまでも浸っていたいと感じた。「MUTEK」のライブに追随する、魂が揺さぶられるような演奏だった。
そしてエピローグ。小室さんのピアノの旋律が響き渡る。まるでピアノの調べによって、何か不穏な動きや実態を平穏で静かな世界にいざない、収束させていくように締めくくられていく感覚。
曲の長さを微塵も感じさせない、あっという間のめくるめく音の展開だった。

『Aerodynamics』のあと、浅倉さんが「アルバムが出るのを言わないと!おうちでこの曲じっくり聴けるんで」とミニアルバムの発売について触れる。

次の曲は小室さんが「PANDORAのヒット曲と言えると思います。」と紹介した『Be The One』。「仮面ライダービルド」の主題歌としてチャート・インを果たしてもいる話題曲。とてもPOPで耳に馴染むメロディ、そこにBeverlyのまっすぐなハイトーンのボーカルが相まって、胸をすくような爽快な曲になっている。Billboard Live Mixともいうべきアレンジで自由自在に音が重ねられていく。浅倉さんは鍵盤を持ち上げるパフォーマンスで会場を沸かせ、アウトロでは重厚なシンセサイザーの音が轟いていた。

拍手か鳴り止まない中、「普通の会場と違って、この場にいてアンコールという(笑)ふたりともSFや宇宙がすきなので、ちなんだ曲をやってみたいと思います。」と小室さん。
静かに映画『未知との遭遇』のフレーズ。シンプルな5つの音はどうしてそれだけで宇宙を連想させるのだろう。言葉がなくても通じ合える音。彼らはまさに交信しているかのように音を弾き交わす。鐘の音のような音色が響きわたる。そして荘厳な『Jupiter』の調べ。軽快なオルガンサウンドが加わり、交信する5音とJupiterのパズルは見事に溶け合い、一枚の絵が完成していくような演奏だった。

小室「よろこんで、という感じではないんですけど歌わせてもらおうと思います。」拍手と歓声がひとしきりあり、今夜のラストの曲『永遠と名づけてデイドリーム』。

小室さんはいつからかSNSなどで「僕の歌はちょっと…」と自身の歌を謙遜して語るようになった。なぜだろう。そんなことは全くないのに。1991年に小室さんのソロ曲として発表されたこの曲は、ファンにとって大切な楽曲のひとつであり、透明感のある、美しく刹那なバラード。この曲のCDを手に入れ、ワクワクしながら開封し、エンドレスで聴いていたあの歌声そのままだと感じた。演奏は浅倉さんがメインとなり、小室さんはピアノに向かいつつ、じっくりと歌に集中していた。

ステージで浅倉さんは常に小室さんの一挙手一投足を優しく、注意深く見つめていた。小室さんの奏でる音に合わせ、ある時は音に溶け込み、音色がひとつになるように。そしてある時は小室さんの主旋律が最高のかたちで響くように。

小室哲哉の音楽をその真髄まで熟知する浅倉さんだからこそ、その加減が絶妙なのであり、決して誰にでもできるものではない。
こうしてPANDORAの奏でる音は1+1=2ではなく、無限大になっていく。

何よりも印象的だったのは、小室さんも浅倉さんもこのライブをとても楽しんでいるようだったことだ。この一瞬、一音、一秒を惜しむように大切に演奏していた。アイコンタクトをとり、時にほほえみ合いながらそれぞれが鍵盤に向かう様子は、ずっと観ていたい、聴いていたいと願わずにはいられなかった。

ライブで小室さんは進退のことは何も口にしなかった。MCのメインは小室さんで、変わらない穏やかで優しい口調だった。時折、浅倉さんが会話を投げかけ、終始和やかな雰囲気のMCを挟みつつライブは進行した。そのいつも通りがとても心地よくて、救われたような気持ちがした。

ここ数年の小室さんのライブでの記憶と記録に残る演奏を思いつくまま挙げてみたい。生配信され、延べ14万人以上が目撃し、音源化および映像化された2011年6月の「DOMMUNE」スペシャルライブ。2015年3月の横浜アリーナでの「TM NETWORK 30th FINAL」のキーボード・ソロ。2016年10月のケミカル・ブラザーズ主催のイベント「Rockwell Sirkus」での日向大介氏との共演、そして前述した「MUTEK」でのインスタレーション・ライブ。すべての演奏が圧巻の迫力であり、音楽家小室哲哉の真骨頂に触れることができたライブであったと思う。

今回のPANDORAのビルボードでのライブも、記憶と記録に残る公演のひとつに掲げられるだろう。このライブは伝説となり、観た人は図らずも伝説の目撃者になった。それは事実上のラストライブとされていたからではない。全く違う。それは、PANDORAというユニットのキック・オフに立ち会えたこと、そしてこの限られた空間の中で、ふたりの表現者の融合にダイレクトに触れ、新しい音楽の可能性を強く感じることができたからだ。

それをもの語っていたのは、終演後の観客全員によるスタンディング・オベーションと鳴り止まない拍手であった。終演を告げるアナウンスが3度流れても拍手が途切れることはなかった。その意味は、ただ単純にアンコールや再登場を求めたのではなくて、ふたりの音楽家への賞賛と賛美の想いとともに、未来に向けての一縷の期待がそっと込められていたのだと思う。

どうやらPANDORAの音楽は病みつきになるような気がする。PANDORA feat.Beverly『Be The One』PVのYou Tube再生回数はすでに580万回を突破している(2018年2月16日現在)。日本が誇るべきこのふたりの天才的キーボーディストによるユニットの歴史は始まったばかりだ。まだまだ未知なるポテンシャルを存分に秘めている。

いつかまたふたりの、そして小室さんの紡ぎ出す新しい音が聴きたい。ライブが観たい。それは実に多くの人が望んでいることだろう。

全く勝手な妄想だが、夢は強く願えば叶うと信じたい。
小室さんはいつの時も夢を持つことの大切さを音楽を通して聴き手に伝えてきた。
誰よりも夢を奏で、夢の大切さを歌詞に込め、たくさんの夢を人に与え、自身は人のなし得ないような夢を叶えた。

これほどまでに一貫して人が夢を持つことを励まし続けた音楽家、アーティストは小室哲哉以外には見当たらない。

だから今はただ静かに、ゆっくりと待ちながら夢の行方を追いかけたい。


2018.2.3 Sat
PANDORA 2018 @ Billboard Live OSAKA 2nd stage Set List
M1. Opening
M2. Shining Star
M3. proud of you
M4. TK Piano Solo(Get Wild〜 Departures〜Precious Memories)
M5. CAN YOU CELEBRATE?
M6. Aerodynamics
M7. Be The One

Encore
E1. 未知との遭遇 ~ Jupiter
E2. 永遠と名づけてデイドリーム

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